ゆきあかり
羅瀬 檀


「寒いから暖めてくれる?」
猫のような眼差しで誘う啓介とベッドに沈んだのは数時間前。
両親は今日も不在。
冷たかったシーツにはあっという間に温もりが移り、触れあった肌からは熱いほどの熱が伝わった。
それにしても今夜は冷える。
情事のあともその暖かさが手放せなくてしばらくベッドで戯れていたが、さすがに夜も更け睡魔が襲ってくる。
眠る前にシャワーを浴びようと、啓介は部屋を後にした。


「さみぃ・・・」
シャワーで洗い流した身体からあっという間に熱が去っていく。
身を震わせながら薄暗い廊下を電気もつけず部屋へ歩く。
すると、やけに廊下の窓の外が明るいことに気がついた。
今夜は満月だろうか。 そんな事を思いながら何気なく外を見る。 縦長の3連の嵌め込みガラスの向こう、キラキラと輝くものと街を覆い尽くす、白。
「あ・・・」
雪だった。
今年初めての。
屋根にも、道路にも、木々の上にも。
静かにそれは舞落ちる。
うっすらと積もった雪に月の明かりが反射して、ぼんやりと光を放っていた。
道理で寒いはずだ。
目が離せなくてしばらく外を眺めていると、「啓介?」と名前を呼ばれた。
「アニキ」
「シャワーだけのはずなのになかなか戻って来ないから心配した」
そういって傍らにきた涼介も外を見てその理由に気づく。
「いよいよ冬だな・・・」
「あぁ」
ゆっくり、ゆっくりと雪は街を覆っていく。
また啓介が寒さに身体を震わせた。
涼介は後ろからその肩を抱きしめると、そっと首筋に口づけを落とす。
「冷えるから先に布団入ってろよ」
そういって腕を解くと入れ違いにバスルームへと向かった。
啓介は涼介が触れた首筋をそっとなぞり、微笑んだ。


涼介が戻る頃にはすっかり啓介は眠りについていた。
その寝顔があどけなくて思わず笑みがこぼれる。
自分を誘う妖艶な顔を見せたかと思えば、雪を見て子供のように喜んだり。
その表情はころころと変わりいつまで見ていても飽きることがなかった。
上掛けをめくりベッドの手前側に身体を横たえると、すぐさま啓介が擦り寄ってくる。
多分無意識なのだろう。
その温もりを抱きしめて、涼介は目を閉じた。


雪は朝になればあっという間に溶けてしまうだろう。
だけど今夜は冷えるから。
互いの温もりをそばに感じて眠りにつこう。

■ end ■