シークレットシークレット
嶋末 千章


サンタクロースが北極圏の国から、今年も順調に出掛けたと国営放送のニュースで言っていたが、トナカイの引っ張るあのソリのスピードでは到底25日までの間には世界を回る事なんて出来ないだろうと心で突っ込める程度には啓介もオトナになったものだと思っている。
トナカイもトナカイだが、サンタもサンタだ。あんな老人にこの冬の寒さはこたえるだろう。だからあれはまあ、ひとつのデモンストレーションみたいなもので、本当は違うのだ。

それに啓介が気付かされたのは小学校6年の時だから、まあ、平均よりは遅いのだろう。クリスマス前に同級生から言われたのだ。サンタは本当はいない、と。かなり強い口調だったので啓介はたいそうショックを受けて帰宅すると涼介の帰りを待った。ながいながい時間をじりじりしながら過ごし、自転車を押しながら門を潜った(中学は自転車通学だった)涼介へ啓介は飛びつくと、今にも泣き出しそうな顔で聞いた。
「サンタって本当にいないの?」
一瞬、涼介はびっくりした顔をしたが、直ぐに何時もの、うっとりするような笑顔を浮かべて答えてくれたのだった。
「啓介、サンタはな………」

ふう、と啓介は息を吐いてテレビをリモコンで消すと、リビングのテーブルに転がしていた袋を取り上げた。折り曲げた口を留めていたテープを剥がして、中から新品の靴下を引っ張り出す。
「あんなじじいが来る訳ねえよなー」
そう呟いてにんまりと笑う。だってあの日、涼介は言ったのだ。
「サンタは各国に沢山の支部があるから心配するな」
……と。
今年は何が貰えるのだろう。そう思うとわくわくする。去年成人式を済ませた自分はもう子供ではないのだから駄目だろうか、と涼介に相談した時も、やっぱり涼介はにっこり微笑みながら、
「まあ、とりあえず用意してみたらどうだ?」
そう優しく言ってくれたので、用意していたら朝には小形の音楽プレイヤーが突っ込んであった。どうして自分の欲しいものがわかるのだろうと不思議だったが、やっぱり嬉しかった。
「啓介、用意したか?」
「おう」
振り返ると、涼介が楽しそうな顔で笑っていた。啓介は涼介の分も用意した、と靴下を持ち上げてみせる。
「楽しみだな、アニキ」
「……そうだな」
少しだけ、少しだけ空いた間に啓介は小さく首を傾げたが、気にしないことにして、涼介へ靴下の片方を渡すと自分の部屋へ向かったのだった。

■ end ■