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Trick or treat (2)
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郁篠
10月31日。
その晩、啓介は落ち着かない様子でリビングのソファーに腰掛けていた。 ポケットから、チョコレートを手に取りだしては、 「よし」 っと頷きまた戻す。 兄である涼介と恋人になって、二度目のハロウィン。 去年は、そんなイベントがあるなんて事も知らなかった。 涼介が帰ってくるなり問いかけた 「trick or treat」 の言葉に、啓介がお菓子を用意している筈もなく、散々好きなように弄ばれたのだ。 「オレが子供の頃は、無かったよな、こんなイベント」 今年は、お菓子の準備万端。 それでも一応シャワーも浴びて涼介の帰りを待つ。 期待している訳ではないが、あの兄のことだ、どんな理由を付けて去年のような事になってしまうかわからない。 別にエッチが嫌いな訳じゃない、抱きしめられれば嬉しいし、キスも大好きだ、しかし。 「アニキが悪いんだよなぁ」 昨年の事を思い出し、ぼそりとつぶやいて、膝を抱え丸くなっていると、聞き慣れたFCの音が聞こえてきた。 緊張しながら、玄関へ向かいかけ、 待ちかまえていたようで恥ずかしいな。 そう思いきびすを返したところで、ドアが開いて疲れた様子の兄が帰ってきた。 「ただいま」 ふわりと笑う涼介に目を奪われる。 「おかえり。なんか、アニキ疲れてんな?」 部屋へ向かう涼介の後を雛鳥のように追いかける。 「ああ、でもようやく一段落したからな。今週末はゆっくりできる」 涼介はジャケットを椅子に掛け、座り込む。 「お疲れさん」 この様子だと、今日がハロウィンなんて事忘れてんだろうなー 疲れている涼介の様子に 「アニキ、飴食う?」 疲れてるときには、甘いもんだよな。 そう言って、ポケットからキャンディを取り出した啓介を見て、一瞬考えた後、にやりと涼介が笑う。 「期待してたのか?」 飴を渡そうと伸ばした手をそのまま引かれ、ぎゅっと腰を抱きしめられる。 見下ろした涼介の少し疲れが見える表情に、色気を感じて啓介はどきりとしてしまう。 「啓介。trick or treat」 そう言って、臀部をさまよい出す手を押さえて 「だから、treat!ほら飴っ!」 お菓子を用意しているのだから、悪戯される理由は無いはずだと突っぱねる。 しかし、 「treat。もてなしてくれるんだろう?」 服の裾から侵入した手が啓介の身体をまさぐる。 「俺には、「啓介」が一番のごちそうだからな」 口づけを強請るように、涼介にシャツを引かれ、顔が近づく。 「仕方ねえな」 啓介はポケットからチョコレートを取り出すと、口の中に入れて、真っ赤な顔で涼介の口唇に口づけた。 舌でからめ取られ、また取り返す。 互いの口腔を行き交うチョコレートを味わう。 チョコレートが溶けてなくなる頃には、お互いの息も上がっていた。 「結局、アニキに甘いんだよな、オレ」 目をそらして、わざとらしくため息をついてみせながら。 「残さずちゃんと食ってくれよ?」 もう一度涼介の口唇に口付けた。
■ end ■
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